ザ・ボーダー●1999徳天瀑布
 


徳天瀑布の入り口にあった看板です。「国境を越えるべからず」と書いてあります。きっとどこかの観光客が知らずに越えてしまったので、あわてて立てたのでしょう。この看板、昨日僕が到着した時はまだ工事中でした。そしてさあ帰ろう、という段になって完成していたのです。
「国境を越えるべからず」と書いてあるのですが、国境ってどれ??もし、ここに書いてある国境というのがこのちゃちな石碑だとしたら…

もうすっかり越えちゃってます。それどころか、この石碑の文字の部分はベトナム側に向いていて、写 真を撮ろうと思えばベトナム側からでないと撮れないのです。だから僕だけでなく、観光で来ていた偉そうな軍人さんご一行も越えちゃってます。僕なんか、この石碑を越えて300メートルくらい中に入っちゃってます。

これがその証拠写真。このあと人が近づいてきたので、もしもベトナム人と接近遭遇したらまずいなと思って引き返して来ました。この水牛なんかもベトナム牛なのでしょうか。

滝にはイカダがあって滝壷を一周してくれます。一時間たったの3元(45円)」だというので乗ってみました。すごい水しぶきです。中国人はみんな水着になって滝壷で泳いでいます。イカダの船頭さんに聞いて見ました。
「あの対岸はベトナムなの?」
「そうだよ」
「じゃああそこを歩いている人はベトナム人?」
「そうとも、その人も、その横を歩いているワンちゃんもベトナムのさ」

というわけで、船頭さんは川の中州でイカダを止めてくれて僕を下ろしてくれました。乾期ならこの中州は完全にベトナム領です。今は申し訳程度に水があってなんとかその水が国境の役割を果 たしています。

滝を去る時間になって、バスを探すのに村の方に降りて行きました。村といっても家が数軒と商店が数軒あるだけのさびれた所です。バスなんて全然なくて、「わー困ったなあ」と思っていると、誰かが話しかけてきました。何やら手帳を開いて見せてくれます。「わー、警察手帳だよ」。とりあえずパスポートを見せて疑いを晴らそうとしますが、全然効果 無しです。僕はその私服警察に連れられて、臨時派出所まで同行させられちゃいました。
さて困ってしまったのは、一体何の疑いで連れて来られちゃったか解らない事です。荷物を全て調べられ、質問されます。
「キミは一体何をしにここに来たのか?」
「観光ですよ」
「何で中国語が出来るんだ?」
「上海に留学したんです(嘘です。こうでも言わないと益々話がややこしくなりそうだったので)」
「何処の大学だ?」
「上海大学です(大嘘)」
「上海大学?聞いたことねえなあ、学生証見せて」
「昔の事だからもう学生証はない。(さっき嘘をつかなきゃ良かったと激しく後悔)」
「じゃ、今は何をしている?」
「日本で仕事をしているんです」
「そうか。で、中国には仕事で来たのか?」
「いいえ、観光できたんです」
「これから何処へ行く?」
「南寧に帰ります」
「そうか。ところで徳天には何しに来た?」
「ですから、観光で来たんですよ」
この辺で僕もだんだんイライラしてきて、ガイドブック“ロンリープラネット”を取り出し、徳天瀑布の写 真を見せました。
「ほら、この本に紹介されていて、とてもきれいな所だと書いてあるので来たんですよ。それにしても、何故僕がそんなこと聞かれなければいけないか、さっぱり解りません。」
私服警官はこの写真にとても興味を示し、やっと格好を崩しました。そして、
「我々はあなたを疑っている訳ではなく、あなたの旅行の安全を願っているのですよ。」
などと言いおった。日本の警察の職務質問の言い訳と同じじゃん。
という訳で実際はこんなにスムーズに会話が進んむはずもなく、約30分でやっと解放されました。派出所の写 真も撮りたかったけど、これ以上のトラブルは避けたかったから止めときました。
よく見ると地面に不自然な穴ぼこが沢山あります。きっと爆弾か地雷の跡なんでしょう。やっぱりここは国境最前線。