初めてのバスの旅●1988武夷山
 


上海から列車で上饒まで、そこからバスに乗り換えて武夷山に向かう。

3月19日の日記より…
「上饒に列車が着くと2人の公安がパスポートをチェックしに来た。この街は外国人に解放されていないので追い返されても文句は言えないのだが、列車の切符を売ってくれたんだから大丈夫だろう。公安に「武夷山に行きたい」というと通 してくれた。
改札でバス乗り場を聞くと、目の前のバスがそれだと教えてくれる。バスはまるで僕らを待っていたかのように乗り込むなりガラガラのまま発車する。よかった。武夷山までの交通 手段について下調べすることも無くここまで来ちゃったのだ。こんな未解放都市で迷子になったら大変だ。

バスは田舎道を走って行く。この辺りに外国人が来ることなんてほとんど無いはずだ。乗客も今まで見たこともないようなボロを着た田舎者ばかりだ。多分バスに乗ることさえ滅多にないような人たちなんだろう。
バスは停車場に止まるたび人を乗せてゆく。前の座席に座った娘さんは、乗って5分もしないうちに窓を全開にした。風が吹き込んできて寒い。窓から首を突き出して唾を吐いていたが、乗り物酔いのようだ、やがて嘔吐を始めた。顔は吐寫物でくしゃくしゃになった。
その娘さんのとなり、通路側に座っているお姉さんもつらそうだ。やがて体を乗り出して窓の外に嘔吐した。それを何回もした。姉妹二人して窓から首を突き出して嘔吐しているのだから、顔が下にある妹さんに顔が上にあるお姉さんの吐寫物がかる。窓から二つの首がトーテムポールの様に出ていて、あんぐり開けた口からたえず嘔吐している。僕の席は二人のすぐ後ろで、窓にはゲロが一面 に張り付いている。その向こうには山の景色が霞んで見える。
こういう病気は伝染する。
前方の座席にいる娘さんも嘔吐しだした。N君のとなりのおばあさんは一心不乱にサトウキビを食っている。しかし今にも死にそうな顔だ。やがてばあさんの隣の娘さんが大音量 で嘔吐し始めた。オエッオエッ。この音で車内がすごい緊張感につつまれた。そして回りのおじさんたちの間から口笛が聞こえ始めた。この緊迫した状況で何故口笛を?気を紛らしているのだ。
バスはつづら折りの路をひた走る。あっちでも、こっちでも嘔吐している。トーテムポールはもうツバしか出ない。黙々とサトウキビを食い続けるばあさん。ヒュールー、ヒュールールー、口笛。3時間強のバスの旅だった。」
上の写真はそのバスとN君。

さて、その武夷山はというと、こんな所です。