カンボジア旅行記 その2・シアヌークヴィル(コンポンソム)
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プノンペン・シアヌークヴィル間の道路。プノンペンのマーケット近くから出るGSTバスで4時間、8000R。中間地点の休憩所にて。


インディペンデンスビーチ。後ろに見えるのがインディペンデンスホテル。


日没直前のインディペンデンスビーチ。


赤く照らされたインディペンデンスビーチ。


1999年最後のサンセット。


オーチャティアルビーチの白い砂浜。歩くとキュッキュッと鳴き声をあげる。


こういうバンガローがズラリと並ぶ。1日で1$。椅子に座るとどこからともなく料金を徴収しに人が来る。


リゾート気分を味わう筆者。2時間で飽きてしまった。やっぱりリゾートは似合わない。


水の透明度はかなり高い。南に行くほど遠浅になり、人も少ない。


南端には小さな漁村がある。そこの住民。


漁村の犬。


シアヌークヴィルの町。

シアヌークヴィルのコンポンソムホテルの窓のない部屋で目を閉じていました。エアコンのウインウインという音が近くなったり、遠くなったりしています。無意識の奥の方からは「Here there and everywhere」というビートルズの曲のメロディーが聞こえてきます。今日の午後ずっと何回も頭の中でリフレインしていたフレーズです。何かの曲のフレーズが一日中頭から離れなくなることってありましょう。そういう現象に陥っていたのです。慌ただしい一日を振り返りながら、その日鳴り響いていた曲の事を考えていました。

12月31日の朝をバンコク国際空港のベンチで迎えた僕は、3時間しか眠っていない眠い目で、カンボジアの首都プノンペンに到着しました。そして空港からバスターミナルへ直行し、午後12時半のバスを予約し、夕方4時半にはシアヌークヴィルに到着していました。すごい駆け足の一日でした。10日間の日程で4箇所を回ろうと思っていたので、時間がもったいないのです。初日でこれだけ飛ばしておけば、後の日程も少しは楽になるだろうという計算です。

午後12時半のバスは韓国製の中古品でしたが、良く走りました。エアコンも効いていたし、定員も守ってました。無料の飲料水も配られたし、2時間走ったところでトイレタイムもありました。そこはドライブインと呼ぶには質素な場所ですが、どのバスもここで休むようで、向かい側には上りのバスも休憩していました。運転手はここで食事をし、客はドリンクやフルーツを買い、トイレに行きました。しかし、ここにトイレはありませんでした。乗客はめいめい好きな場所に行って、用を足します。僕も木の横で足しました。おばちゃんが店の裏でしゃがんでいるのが目に入ってしまいました。風が急に吹いて、小便がズボンにかかりそうになって焦りました。別になんて事のない風景なのですが、このとき突然ビートルズの「Here there and everywhere」のメロディが鳴りはじめたのです。「ここでもそこでもどこででも」。なんか自由な感じでいいなあと思いました。

シアヌークヴィルはビーチのある町です。カンボジア唯一の港もあります。ハワイだのプーケットだのには全然興味ないですが、カンボジアのビーチリゾートって何となく良くないですか。金のない僕でも何となく片隅にいても違和感ないような感じでしょう。それに結構、海とか好きなんですよ。似合わないけど。ですから、カンボジアで是非行きたいところの第2位にランクさせておきました。1位がカンポットです。その順番で旅行記もアップロードしています。

バスを降り、すぐそばのホテルにチェックインすると、荷物だけ置いてすぐに出かけました。今日は大晦日なので、是非サンセットを拝んでおきたいと思たのです。

シアヌークヴィルの街は小高い丘の上にあり、ビーチは街からかなり離れています。歩いても良いのですが、ガイドブックには「余程歩くのが好きな人か物好き以外はバイクで行った方が良い」と書いてあります。地図を見たところ4つのビーチが別々の方角にあり、どのビーチに行けばいいのかもわかりません。そこでオートバイタクシーの運ちゃんと相談し、インディペンデンスビーチに連れていってもらいました。ビーチに着いたときはもう空は真っ赤で、日没寸前でした。

このビーチは町の西側に位置し、比較的静かな所です。ビーチサイドにはどでかいホテル(インディペンデンスホテル)がありますが、営業していません。すっかり廃墟です。空気はきれいだし、砂浜は白いし、海は青いし、夕日は赤い。満ち潮のようで、砂浜はすごく狭くなっていて、建ち並んだバンガローが今にも潮に洗われそうになってます。その辺りが陽に照らされてまっかっか。周囲を見下ろす場所にはインディペンデンスホテルがまるで墓石のように建っていて、それまで美しく見えます。そして、売れもしないお菓子を売り歩く女の子たちの寂しげなのがそれに花を添えています。ビーチサイドのビール腹の外人さんカップルは場違いに見えます。まったく一年をしめくくるに相応しいサンセットです。

待たせてあったバイクタクシーの運ちゃんがずっと僕の後をついてくるのでいつまでもここに居るわけにもいかず、町に帰ります。今日はどこかのビーチでカウントダウンパーティーがあるそうです。「行かないの?」って聞かれましたが、もう十分です。メシを食って、ホテルに帰って、CNNでニュージーランドで年が明けたのを確認して寝ました。

次の日、朝からカンポットへ出かけ、慌ただしく帰ってきたのは1月2日の正午でした。ホテルは再びCNNが映るコンポンソムホテルにしました。ホットシャワー・冷蔵庫・クーラー・TV付きのシングルが10$です。窓がないのと、部屋が狭いのが欠点ですが、ここのマネージャーのオッサンが気に入ったので決めました。僕が着くと、オッサンはシャワー中だったらしく、バスタオルを腰に巻き付けた状態で内股で出てきて、応対してくれました。次に見たときには短パン一丁で従業員たちとバドミントンしていました。のんきなホテルです。つぶれやしないか心配になってあげます。それが理由で僕は2泊もする気になったのです。

この日は一日ビーチでだらけようと心に決めていたので、町の南にあるオーチャティアルビーチに出かけます。バイクタクシーで10分。運ちゃんは、結構なスピードで走りながら後ろを振り向き向き、ビーチの後でビバ・ディスコティクに行かないかと誘ってきましたが、そんなの行かないから頼むから前見て運転してくれと祈りました。

ビーチは結構なにぎわいでした。昨日が元旦、今日は日曜と連休のせいでしょう。北端にはホテルが数軒、レストランもありますが、どんどん南側に向けて歩いて行くと人もまばらになります。2kmほどある砂浜の中程まで歩いた辺りで雨がポツリと降りはじめました。この浜辺にはズラーっとバンガローが並んでいて、ビールやコーラや軽食も売ってます。その一軒のデッキチェアに座り、コーラを注文しました。バケツのようなモノを持っていたので、きっと氷が入っているんだろうと、だまってコーラを待っていました。そのうち雨は止んでしまいました。西日が射し込んできて足を焼き始めました。コーラが全然来ないのでせめて氷でもと思い、バケツを開けてみるとその中に氷とコーラが入ってました。うっかりしてました。おかげでコーラは少しだけ冷えています。今日はもう何もしないで半日かけてこれを飲もうと、気合いを入れてのんびりします。でも2時間ほどで飲み干してしまいました。すると貧乏性がゆえにそれ以上はじっとしていられなくなり、3時には席を立ち、だらだら歩いてビーチの最南端まで歩き、さらにはそこから町まで歩いて帰りました。

ビーチから町まで40分くらいです。顔が痛くなる程の日差しさえ我慢できればなんてことはありません。誰もこんな炎天下を歩いているヤツはなく、バイクの運ちゃんの格好の標的になりました。歩いているだけで、遠くの方から空のバイクが僕の方に向かって走ってきます。周りには誰もいないので多分僕に向かってきているのです。首を横にイヤイヤと振ると、バイクはUターンして帰っていきます。僕は酔狂なのか、それとも余程歩くのが好きなんでしょう。また「Here there and everywhere」のメロディが浮かびます。バイクタクシーをチャーターしてあちこち回るのも便利ですが、自分の足で好きな方向に歩いていく方が少し自由な気がします。

翌日町を出ることにしました。まだ、ビクトリービーチにも行っていないし、港も行っていないのですが、飽きちゃいました。それにメシがまずくて高いのです。のちにこれが普通の値段ということがわかりますが、料理が一品10000R(3$近い)もするのには閉口しました。ビールも1.5$するのです。ここ数日ろくなモノを食っていない僕は、もう少しまともな食料を食うためにプノンペンに戻ることにしました。

翌朝、7時30分のバスに乗るためにターミナルに行くと既に満席でした。ちなみにバスは帰路の方が安く、7000Rです。ターミナルから3分ほど行くともう一つバス会社があり、そこには5000Rのバスもありました。車体の性能とか外観には大差ないようなので、こっちの方がオトクです。でもこちらも僕の前に横入りしたオッサンのおかげで満席になってしまいました。仕方ないので、マーケットまで行き、ここで乗り合いタクシーを探します。うろうろしていると、「どこへ行くの?」と中国語で話しかけられます。どうして中国人に見えるのか不思議です。

プノンペンまでの乗り合いタクシーは一人3$でした。例によって一人で2席占有しようと思っていたのに、いつしか車は満員になっていて、1席しか確保できませんでした。窮屈です。後部座席には僕を含めて大人4人と子供1人。助手席には女性2人(抱き合って座っています)。運転席には男性2人(運転はかなりのデブで、二人がどうやってケツを並べたかは謎です)。さらにトランクには米袋2つ積んでいます。運転手はどうやってクラッチを踏んでいるのでしょう?車はトヨタカムリで、プノンペンまでの300km弱を約3時間で走り抜けました。この車は珍しく速度計がちゃんと機能していたので、スピードを観察してみました。最高速度140km、平均巡航速度110〜120km出ています。中古とはいえさすがは世界のトヨタです。速度オーバーを警告する「チンコンチンコン」という電子音が途絶えることなく鳴り続けていました。

ぼくはみじろぎもせず、体を突っ張ったまま、窮屈と恐怖に耐えていました。地雷を踏むよりも、交通事故で死ぬ可能性の方が1000000倍高いと思いました。地雷なら足だけかもしれないけど、事故ならば確実に死ねるな思いました。昨日まで鳴り響いていたビートルズのフレーズはどこかへ飛んでいってしまい、「チンコンチンコン」という電子音だけが耳に張り付いていました。

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